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LPレコード再発見の経緯 ~ Cremona鎮座


クレモナへの妄想

2004年春頃、友人から「クレモナいいらしいよ、今度一緒に聞きに行こう」と誘われた。「クレモナ」(Cremona)とはイタリアのソナス・ファーベルから2002年3月に発売されて以来ロング・セラーとなっていたペアで定価100万超もの高級スピーカーである。それから気になって雑誌などでチェックしていたのだが、とても遠い存在に感じ、友人の誘いに乗ることはなかった。


秋葉原にヤマギワ本店があったころで、きらびやかな視聴室でイタリアの歌劇をリン(LINN)のシステムで鳴らしていたところに偶然巡りあわせたのが初対面だった。店員が「(クレモナには)イタリア語が良く似合う」と話していた。奥行感と定位の良い美音で、特に人の声が美しいスピーカーという印象だった。


しかし、私の経済力では分不相応。力不足なシステムに迎えることなど不可能と思っていた。


それが、ある雑誌の「鳴らしやすく、一点豪華主義で組み入れても良い」という記事が目に止まり、徐々に妄想が膨んで行くこととなる。ちょうど、精神的にプレッシャーのかかる事柄が続いている頃で、悶々としている姿を女房が見かねて、「買ってもいい」と言ってくれたのである(何と!)。そして、『オーディオ・アクセサリー117号』(2005年夏号)の特集『スリムで置きやすいフロアスタンディングスピーカーの実力と使いこなしを探る』の選評で「ズバリ一生もの」(林正儀氏)が決定打となり、以前、アンプ購入で親切にしていただいた、秋葉原T社のM氏の元に飛んで行ってしまった。


クレモナ鎮座も・・・

2005年7月某日、とうとうM氏と応援の二人で納品に来てくれることになった。クレモナが設置出来るスペースは空けたものの、安普請の部屋、迎え入れる貧弱なシステムを見て何と思うだろう、気後れしきりで当日は逃げ出したい気持ちで一杯だった。


設置が完了して、いよいよ音出し、何のCDをかけたか覚えていない、クレモナが、何ら特徴のない平凡な音で鳴り出し、ショックを受けたことだけはっきり覚えている。ヤマギワで聞いたあの気品ある音は何だったのか?やはりこんな部屋/システムで鳴らすことなど不可能なのか。


当時使っていたCDプレーヤーはアーカム「CD72T」(定価85K)、プリメイン・アンプがミュージカル・フィデリティ「A3」(定価198K)。クレモナを鳴らすにはどの程度のアンプが必要なのか?応援の方に尋ねたら「普通であれば、スピーカーと同額の投資をアンプにかけるのがよろしい」の返答。あ~だめだ!これは失敗だった~!つとめて平静を装っていたが、心は絶望の淵にいた。


クレモナが囁いた

エージングが進めば、少しは良くなるのでは、ワラをもつかむ気持ちで、手持ちのCDをとっかえひっかえかけ続けたがダメ、クレモナと対峙しながら、がっくりと首をたれ悲しくて身動きが取れないでいた。どれくらい経っただろうか、「クレモナいいらしいよ、…」と教えてくれた友人が置いて行ったCD(カーメン・マクレイ『ブック・オブ・バラッド』)が目に止まり、それをかけた時のことである。


ブック・オブ・バラッドのCDジャケット クレモナの写真

カーメン・マクレイの声を借りて、
クレモナが囁きかけてくれた。



英語を解さないのが幸いしたのであろう、「Kiss me once, kiss me towise…」のフレーズで有名な『How Long Has This Been Going On』が流れた時、カーメン・マクレイの声を借りてクレモナがささやきかけてきたのである。


「ねえ、なにを悩んでいるの?」

「悩むために、私を買ったの」

「ほら、聞いてよ、いい曲じゃない。音楽を楽しみなさいよ」


「エッ?」私は顔を挙げて、少し正気に帰った。あれっ、いままでの音とは何かが違う。確か、これに近いレコードがどこかにあったはず。私は、かなりの数のLPレコードを所有していたが、これからは、さすがにCDに移行しなければだめだと思い込んでいて、レコードをかけることは考えなかった。


LPレコード再発見

半信半疑でレコードに針を降ろした。たまげた、この芳醇な音は何であろうか、CDとはまるで別物の拡がりのある世界。


次の日、お礼がてら秋葉原にM氏を訪ね、レコードが素晴らしく良く鳴ることを伝え、CDで同等の音を得る方法を尋ねた。「100万、200万のCDプレーヤーを買ったところで、所詮レコードとは世界が別」。M氏は「CDかレコードかは好き好きの問題である」ことを伝えたかったのだと思う。


クレモナのおかげで、私の中でLPレコードの存在が絶対的なものとなってしまった。