タイトル | ジャスト・ライク・ザ・オールド・タイムス (Just Like The Old Times) |
アーティスト | クレイグ・ランク (Craig Ruhnke) |
レーベル/番号 | テイチク, SUX-234-V |
タイトル | トゥルー・ラヴ (True Love) |
レーベル/番号 | テイチク, SUX-243-V |
カナダのシンガーソングライター、クレイグ・ランク (Craig Ruhnke)のLPレコードを2枚紹介します。テイチクから1982年に発売された『ジャスト・ライク・ザ・オールド・タイムス (Just Like The Old Times)』と、翌83年リリースの『トゥルー・ラヴ (True Love)』。
テイチクといえば、カラオケ、演歌のイメージですが、どうしてどうして、洋楽中心のメジャー・レーベルのなかには名声にあぐらをかいているとしか思えない質の悪い盤に出会うことも珍しくないのですが、テイチクの質の高く安定した音の良さにはいつも感心させられます。
クレイグ・ランクのこの2枚は、分かりやすいハートウォーミングな楽曲が並び日本でもかなりのセールスを記録したレコードで、私も聴き込みました。全て彼のオリジナルですが、その全ての曲で、えも言われぬ懐かしさがこみ上げてくる不思議な感覚にとらわれます。どこを切っても同じ顔(DNA)が立ち現れてくる金太郎飴のようにブレないアルバムです。
長谷川工務店のテレビCMに、84年7月から『Just Like The Old Times』中の『(B5)You are My Inspiration』が、85年7月から『True Love』中の『(A3)Nancy Jane』が使用されたこともあり、30代後半より上ならば、彼の曲を耳にしている方も多いと思います。
『Just Like The Old Times』の日本語のライナーノーツに『このアルバムはクレイグの記念すべきデビュー・アルバム』の説明があります。しかし、AORのバイブル的ガイドブック『AOR』(株式会社シンコー・ミュージック、2002)には『本国での3rdアルバム』の記述。どちらが正解か判明しません。
メジャー・レーベルと契約しなかったアーティストは、Web上でも情報が極端に少ないことを思い知らされました。実際、米国のメジャー・レーベルと契約の話が出たようですが、実現はしなかったようです。同じライナーノーツに『アメリカのどんなに大きなレコード会社と契約ができて、売り出してくれそうな機会に恵まれたとしても、真剣に耳を傾け、理解してくれるカナダの音楽出版グループのほうを選んでいきたい』というコメントがあり、信念を貫き通したようです。
『Just Like The Old Times』のジャケットは、本国と日本でデザインが異なります。
2つのジャケットを並べてみました。左が本国カナダでリリースされたオリジナルで、クレイグ・ランクの優しそうなポートレイトです。日本では、このようにポートレイトのジャケットを、イラストや癒し系写真に差し替えてリリースすることがAOR系のアルバムに多く見られます。
私はオリジナル・ジャケットで発売して欲しい口ですが、好セールスに結びついた一つの要因がこのイラストにあると思われるので、本盤についてはあまり否定的になれません。それに「illustrated by HARUO MIYAUCHI」のクレジットがあります。車の後部ボンネットにさりげなく「HARUO」のサイン。アートについて詳しくありませんが、世界的に活躍し2006年に亡くなった「宮内はるお」の手によるものと思われます。宮内はるお氏のファンなら、このジャケットだけでもお宝になるはずです。
もう一枚の『True Love』は「illustrated by KEISUKE KATOUNO」とあります。上遠野恵介氏の作と思われますが、確信はありません。
私がこの2枚に感じる特長が、曲のつながりの良さです。多くの曲がフェードアウトで終わることが理由の一つと考えられます。だんだんとフェードアウトしていくなかで、次の曲のオープニングが頭に浮かんでそのままつながっていく感覚でしょうか。ジャズなどでは敬遠されるフェードアウトですが、彼のアルバムでは成功していると思います。そのなかで『Just Like The Old Times』の『(A4)My Heart Belongs to You』など、とつとつと語りかけてくるような曲ではフェードアウトは使用しません。このあたりのメリハリも効いています。
私が特に印象に残る曲は、それぞれのアルバム・ラスト『You are My Inspiration』『Two Hearts』。『Two Hearts』では、クレイグ・ランクが歌う『You are My Inspiration』の冒頭のフレーズがそのまま使われます。次に、デビー・フレミング(Debbie Fleming)のボーカルが入り、クレイグとのデュエットになります。デビーがリードを取るのはこの曲だけですが、彼女のソウルフルな歌声が大変良いアクセントになっています。
85年に、この2枚から選曲されたCDアルバム『アーバン・プリーズ・イン・ラブ ベスト・オブ・クレイグ・ランク(Urban Breeze in Love ~Best of Craig Ruhnke)』が同じテイチクからリリースされました。それがマニアのあいだで劇レアCDとして5万円以上で取り引きされたと聞いたことがあります。
クライグ・ランクが日本人の感性に合致していることを証明する一つのエピソードがあります。正確な年は思い出せないのですが、1985年から90年代の初めにかけて埼玉県のJR大宮駅を日常的に利用していた方は、彼の曲を必ず耳にしていると思います。その根拠は、駅ビルの店内BGMにこの2枚のアルバムの曲が使われていたことです。半年は続いたはずです。どの時間帯に訪れてもクライグ・ランクが聴けて嬉しくなりました。店の従業員はその期間、開店から閉店まで、ずっと彼の歌を浴び続けたわけで、それでも仕事の邪魔にならず、飽きずに心地よい。おそらく、ベスト盤のCDが音源として使われていたと思いますが、彼の懐の深さを十分に証明していると思います。
クレイグ・ランクは1949年12月生まれで、これを書いている2015年現在で66歳になりますが、活動を再開する噂もあるようです。彼の新作なら是非聴きたいと切に願っています。
A1 | Baby Blue | |
A2 | Reach Out | |
A3 | You're All That I Need | |
A4 | My Heart Belongs to You | |
A5 | Heartache | |
B1 | Just Like Falling in Love Again | |
B2 | Heartbreaker | |
B3 | I Can't Live Without Your Love | |
B4 | I Need You to be There | |
B5 | You are My Inspiration |
A1 | Keep the Flame | |
A2 | Somebody to Love | |
A3 | Nancy Jane | |
A4 | It's Been Such a Longtime | |
A5 | True Love | |
B1 | One Love | |
B2 | Give Me the Nighttime | |
B3 | Ooh Baby | |
B4 | Two Hearts |
[参考文献]
・中田利樹著『AOR』(株式会社シンコー・ミュージック、2002)