タイトル | リヴィング・レジェンド (Living Legend) |
アーティスト | アート・ペッパー(Art Pepper) |
レーベル/番号 | コンテンポラリー(Contemporary),S7633 |
仲間の影響でJAZZを聞き始めたころ、『リヴィング・レジェンド』がずーとターンテーブルに乗っていて、暇さえあれば聴いていた時期があった。初めて手にしたアート・ペッパーのレコードでもあった。
大学時代、友人に連れられて何度か渋谷のJAZZ喫茶に行ったことがある。前衛JAZZ全盛のころで、音の洪水。全く理解できなかった。自意識過剰な時分、分かったふりをして気持ちよさそうに過ごしていたが苦痛であった。その頃『リヴィング・レジェンド』あたりがかかっていたら、JAZZをもっと早く好きになっていたかも知れない。このレコードを聴きながらそんなことを思い出したりもしていた。
追い追い知ったのだが、アート・ペッパーの音楽活動は、薬物更正施設で過ごした60年代を境に演奏スタイルが相当に変化したことから、ファンは前期派と、後期派に分かれるのだそうだ。『リヴィング・レジェンド』は75年リリースで、復帰後の後期第1作にあたるアルバムである。
例のJAZZ仲間の一人が圧倒的な前期派で、対抗意識からも私は後期派を表明していた。そもそも、前期の外盤は高くて手がでなかった。聴かなかったというより、聴けなかったというのが本当の理由だった。
ある日、安価で状態の良さそうな『リヴィング・レジェンド』を見つけた。あれだけ聞いているので、予備としてもう一枚持っていても良いだろうと購入した。針を落としてビックリ。中身(盤)が違っていたのである。何と、『The Way It Was』のドイツ盤。
本来のジャケットはこちら。
『The Way It Was』は、発売こそ72年だが、前期56~60年の未発表テイクの編集盤。ペッパー自身が「最上のプレイ」と自画自賛する『枯葉(Autumn Leaves)』をはじめ、爽やかなプレイが続きとても心地よい。そして、このドイツ盤とても音がいい。
外盤で手に入れるのは高かったので、安い日本盤でも見つけて、正しいジャケットの中に入れてあげようか・・・と考えていたのだが、ある晩、夢の中に『リヴィング・レジェンド』のあの顔がドアップで現れたのである。
その顔は「このレコードも、なかなかいいだろう」と言っているようだった。
私はハッと目が覚めて、そうか!中身差し替えはアート・ペッパーが仕組んだのだ・・・と深く納得してしまった。
「前期だ、後期だと言ってないで、俺のプレイを聴いてくれよ」
その盤は『リヴィング・レジェンド』のジャケットに入ったまま、今日に至っている。