タイトル | アメイジング・バド・パウエル 第1集(The Amazing Bud Powell Vol.1) |
アーティスト | バド・パウエル(Bud Powell) |
レーベル/番号 | BLUE NOTE, BLP-1503 (Liberty直輸入盤) |
手書きRVG |
バド・パウエル(Bud Powell)のブルーノート(BLUE NOTE)初録音で、最初は1951年に10インチLP(BLP5003)で発売されました。1955年発売の12インチLP(BLP-1503)として再編集したものが本盤のオリジナル。同じジャケット・デザインで第2集(BLP-1504)もリリースされていますが、残念ながらRVG刻印盤は持っていません。
パウエルはブルーノートにアメイジング(The Amazing…)の冠がつくアルバムを5枚残しています。日本での一番人気は『クレオパトラの夢(Cleopatra's Dream)』が収録された、最後の第5集『ザ・シーン・チェンジズ(The Scene Changes')』(BLP-4009)でしょう、いつか刻印盤に出会ってみたいが、出会ったところで万馬券でも当てない限り、私には手が出ないはず。『ザ・シーン・チェンジズ』が愛聴盤という方は多いと思いますが、本盤をよく聴いているという方はまれだと思います。いつの間にか終わって、また始まる、冒頭の強烈『ウン・ポーコ・ローコ(Un Poco Loco)』3連発。極めつきの戸惑いは、B面ラストの『パリジャン・サラフェア(Parisian Throughfare)』、何と演奏の途中で突然レコードが終了するのである。最初は誰でも「プレスミスの不良品」と考えるのではないでしょうか。
こういう時に助かるのが、東芝直輸入盤に添付されている、日本語の10インチサイズのライナーノーツ。本盤は油井正一氏ではなく、バド・パウエル研究家の藤井英一氏が執筆しています。『パリジャン・サラフェア』の説明を一部転載すると、『これは、どういう訳か未完成のまま中止されたらしい。この曲の完全な形の演奏は、これより数年後に録音された Clef, MGC-610 に入っている。(中略)アドリブに入り、5コーラスと10小節位のところで、興が乗らなくなったのかやめてしまっている』。
アルバムの収録曲にこだわったアルフレッド・ライオン(Alfred Lion)らしからぬ編集と思うなかれ、この貴重な音源を後世に残したいという考えを尊重すべきと思います。
ちなみに、「Clef, MGC-610」とは、ノーマン・グランツ(Norman Granz)が1946年に設立したClef Recordsの『Moods』(MGC-610)。
私がこのアルバムを取り上げたかった大きな理由が、パウエル自作のB面5曲目『バウンシング・ウィズ・バド(Bouncing With Bud)』。ポップなメロディーで大好きな曲。ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)最初期の演奏というのも話題になるでしょうが、ファッツ・ナヴァロ(Fats Navarro)のトランペット(trumpet)に心打たれました。『バウンシング・ウィズ・バド』つながりで、ナヴァロのアルバムを次ページで紹介したいと思います。
本盤は「1949年8月9日」「1951年5月1日」の2回の録音の編集。ジャケット裏のライナーノーツに「Remastering By RUDY VAN GELDER」とあります。ルディ・ヴァン・ゲルダーのブルーノート初録音は1953年なので、別な人が録音したテープを後日、ヴァン・ゲルダーが12インチLP用にリカッティングしたものです。
おこがましいと思いますが、『ブルーノート・レコード オリジナル・プレッシング・ガイド』(以降、『オリジナル・プレッシング・ガイド』と表記)が規定するオリジナル要件と対比させて見ていきます。
左がA面、右がB面の手書きのRVG刻印です。オリジナルと合致しています。
レコード番号は、手書きでA面が「BN-LP-1503-A」、B面が「BN-LP-1503-B」。区切りは「・(中黒)」ではなく、「-(ハイフン)」。
レーベルの住所表記は、AB面ともに「BLUE NOTE RECORDS・DIVISION OF LIBERTY RECORDS, INC」、66年以降にリバティーで制作したもの。オリジナルなら「BLUE NOTE RECORDS, 767 LEXINGTON AVE NYC」の表記です。また、「深溝(Deep-groove)」ありがオリジナルですが、本盤にはありませんでした。
レコード盤端は、丸く盛り上がる玉縁(ビーズ・リム)。オリジナルなら「平縁(flat rim)」です。
『オリジナル・プレッシング・ガイド』に、1500番台モノラルのオリジナル盤全てに、プラスタイライト(Plastylite)社のシンボルマーク(通称=耳マーク)が存在するとありますが、本盤にはありません。
本盤には、謎の「9M」の手書きの刻印がありました。左がA面、右がB面のものです。ネットで検索してみると、「9M」の刻印をオリジナル盤の条件として扱うページもありますが、『オリジナル・プレッシング・ガイド』に、この刻印についての記述はありません。
「9M」について一番詳しいと思われるのは「ロンドン・ジャズ・コレクター(LondonJazzCollector)」のサイトです。「Blue Note vinyl: the 9M etching」と「Plastylite and The Mystery of “9M”」のページでかなり詳しく言及しています。もちろん、英文サイトなので、私にはなかなか理解が進みません。
「9M」の刻印は、1500番台の多くと、初期の4000番台に見られ、本盤のようにリバティー(Liberty)の再発盤でも時々見つかるといいます。
「Plastylite and The Mystery of “9M”」のページに、『オリジナル・プレッシング・ガイド』の著者であるフレデリック・コーエン(Frederick Cohen)氏に「9M」のことを問い合わせたが「何も分からない」という回答を得たということが書かれています。コーエン氏が「9M」の刻印を見落としていることはありえないので、オリジナル盤判定の根拠として不確実という判断で、『オリジナル・プレッシング・ガイド』の記載から外しているのだと思います。これはあくまで私個人の考えです。
「プラスタイライト(Plastylite)社のシンボルマークであるPマークは、盛り上がっていることから、直前のスタンパー(オス側)に打たれたと考えます。「9M」は彫れているので、メス側のラッカー盤か、メタル・マザーに打たれた可能性があります。どういった経緯で打たれたものか?謎は深まります。
左がジャケット表。右が裏です。ほぼ、オリジナル体裁を保っていますが、ジャケット裏上部に大きな違いがあります。オリジナルであれば、左上には何も配置されていませんが、本盤には楕円と長方形をあしらった、Blue Noteのロゴマークがあります。右上はオリジナルであれば、大きく「HIGH FIDELITY」の表記があります。
オリジナルであれば「HIGH FIDELITY」(ハイ・フィデリティ)の表記のところ、本盤は「NO STEREO」とあります。「HIGH FIDELITY」表記を、LPレコードの世界ではモノラル録音の代名詞ととらえることが多いのですが、本来の意味は高忠実度再生で、現在では、略語の「Hi-Fi(ハイファイ)」の方をよく目にすると思います。ステレオが一般的でない頃に、高音質をアピールするために使われた表記のようで、ステレオが当たり前の時代では「NO STEREO」の方がモノラル録音を示す表記としては確実です。
ジャケットの住所表記は、「BLUE NOTE RECORDS INC, 43 West 61rd St., New York 23」で、オフィスを西61丁目43番地引っ越した60年からリバティー買収直前まで使用したものを流用。オリジナルであれば「BLUE NOTE RECORDS, 767 Lexington Ave., New York 21」です。
ジャケットには背文字がありました。オリジナルは背文字なしが正解です。
インナースリーブ(内袋)は、リバティー(Liberty)が買収した後、1967年以降に使われたものです。
重ねておこがましいとは思いますが、『オリジナル・プレッシング・ガイド』が定義するオリジナル盤との比較を以下にまとめました。
レコード盤のオリジナル度判定 | ||||
---|---|---|---|---|
オリジナル盤 | 所持盤 | 判定 | ||
略語 | 説明 | 略語 | 説明 | |
RVGe | RVG 手彫り | RVGe | RVG 手彫り | ○ |
P | プラスタイライト(Plastylite)社のシンボルマーク(通称=耳マーク)あり | no P | プラスタイライト(Plastylite)社のシンボルマーク(通称=耳マーク)なし | × |
Lex | 「BLUE NOTE RECORDS, 767 LEXINGTON AVE NYC」 | Lib | 「BLUE NOTE RECORDS・DIVISION OF LIBERTY RECORDS, INC」 | × |
dg | 両面に深溝(Deep-groove)あり | なし | × | |
fr | 平縁(flat rim) | br | 玉縁(beaded rim) | × |
ジャケットのオリジナル度判定 | ||||
---|---|---|---|---|
オリジナル盤 | 所持盤 | 判定 | ||
略語 | 説明 | 略語 | 説明 | |
Lex | 「BLUE NOTE RECORDS, 767 Lexington Ave., New York 21」 | NYC | 「BLUE NOTE RECORDS INC, 43 West 61rd St., New York 23」 | × |
f | 額縁(フレーム)ジャケット | なし | × | |
bs | 背文字なし | ps | 背文字あり | × |
nl | ラミネート加工なし | nl | ラミネート加工なし | ○ |
オリジナル盤判定に、殆ど〇はつきませんが、RVG手彫りの刻印から、オリジナルのメタル・マスターから後日、メタル・マザー、スタンパーが作られプレスされたものと考えられます。
本盤は、別な人が録音した音源を、ルディ・ヴァン・ゲルダーがリマスタリングしてカッティングまで行ったもの。1949年と51年と録音が古いこともあり、ヴァン・ゲルダー録音に感じられる温かみがあって抜けの良いサウンドは残念ながらここでは聴けません。しかし、レンジの狭い音域だからこそ、ビ・バップ期の熱さがより強く伝わってくるような気がします。
A1 | Un Poco Loco (1st Take) | 3:50 |
A2 | Un Poco Loco (2nd Take) | 4:28 |
A3 | Un Poco Loco | 4:43 |
A4 | Dance Of The Infidels | 2:52 |
A5 | 52nd St. Theme | 2:49 |
A6 | It Could Happen To You (Alternate Master) | 2:21 |
B1 | A Night In Tunisia (Alternate Master) | 3:50 |
B2 | A Night In Tunisia | 4:13 |
B3 | Wail | 3:03 |
B4 | Ornithology | 2:21 |
B5 | Bouncing With Bud | 3:02 |
B6 | Parisian Thoroughfare | 3:25 |
[参考文献]
・フレデリック・コーエン著、行方均監修/訳
『ブルーノート・レコード オリジナル・プレッシング・ガイド』(株式会社ディスクユニオン、2011)