タイトル | 不滅のファッツ・ナヴァロ 第1集(The Fabulos Fats Navarro Vol.1) |
アーティスト | ファッツ・ナヴァロ(Fats Navarro) |
レーベル/番号 | BLUE NOTE, BLP-1531 (Liberty直輸入盤) |
手書きRVG |
前ページで紹介した『アメイジング・バド・パウエル 第1集(The Amazing Bud Powell Vol.1)』に収録された『バウンシング・ウィズ・バド(Bouncing With Bud)』。その曲でファッツ・ナヴァロ(Fats Navarro)の演奏が気になり、その別テイクが収録されているという理由から手に入れました。
トランペット(trumpet)という楽器をあまり聴かないし、理解も浅いのですが、そんな素人でもナヴァロの壮絶テクニック、高度な音楽性、素晴らしさは理解できます。本盤は『The Amazing Bud Powell Vol.1』と比較すると、練習的なテイクがなく、アルバムとしても良くまとまっています。
『バウンシング・ウィズ・バド』の別テイクといっても、どう違うのだろうか?
やはり、助かるのが、東芝直輸入盤に添付されている、日本語のライナーノーツ。本盤はおなじみの油井正一氏が執筆しています。『バウンシング・ウィズ・バド』の説明を一部転載すると、『これもオリジナル。テークは「アメイジング・バッド・パウエル第1集」(BLP1503)に入っている。「ナヴァロ第2集」にも別テークが入っている。デンマークのイエプセンのディスコグラフィーでは、この演奏が「テーク1」第2集のが「テーク3」、「パウエル第1集」のが「テーク2」となっているが、筆者の考えでは、「第2集」のが「テーク2」、「パウエル第1集」のが「テーク3」で「テーク3」を「オリジナル・テーク」としたと考える』(原文のまま)。
ライナーノーツによると本盤の『バウンシング・ウィズ・バド』が、1949年8月8日録音、「パウエル第1集」が8月9日録音とあるので、パウエル盤の方が1日後。この順番に関しては、油井正一氏、イエプセン氏ともに矛盾はありません。また、両氏ともに本盤の演奏を最初のテークとしています。
本盤もパウエル盤同様に、最初は1952年に10インチLP『Fats Navarro Memorial Album』(BLP5004)として発売されたものの再編集盤。同じく、ルディ・ヴァン・ゲルダーが12インチLP用にリカッティングしたものです。
例のとおり、『ブルーノート・レコード オリジナル・プレッシング・ガイド』(以降、『オリジナル・プレッシング・ガイド』と表記)の規定するオリジナル要件と対比させながら見て行きます。
左がA面、右がB面の手書きのRVG刻印です。オリジナルと合致しています。
レコード番号は、A面が「BN-LP-1531-A」、B面が「BN-LP-1531-B」。区切りは「-(ハイフン)」。
レーベルの住所表記は、AB面ともに「BLUE NOTE RECORDS・DIVISION OF LIBERTY RECORDS, INC」、66年以降にリバティーで制作したもの。オリジナルなら「BLUE NOTE RECORDS, 767 LEXINGTON AVE NYC」。「深溝(Deep-groove)」ありがオリジナルですが、本盤にはありませんでした。
レコード盤端は、丸く盛り上がる玉縁(ビーズ・リム)。オリジナルなら「平縁(flat rim)」です。
また、オリジナルならば通称「耳マーク」と呼ばれる、プラスタイライト(Plastylite)社のシンボルマークがありますが、本盤にはありませんでした。
本盤にも、謎の「9M」の刻印がありました。左がA面、右がB面のものです。この刻印については、前ページ『The Amazing Bud Powell Vol.1』で詳しく触れていますので、のぞいてみて下さい。『The Amazing Bud Powell Vol.1』は、「9M」が縦書きであったのに対し、本盤は横書きになっています。「ロンドン・ジャズ・コレクター(LondonJazzCollector)」のサイトの、「Blue Note vinyl: the 9M etching」のページに、「9M」が打たれているレコード・リストがあるのですが、本盤の続編である『The Fabulos Fats Navarro Vol.2』(BLP-1532)には存在しないと書かれています。
左がジャケット表。右が裏です。ほぼオリジナル体裁を保っていますが、ジャケット裏の上部に大きな違いがあります。オリジナルであれば、右上には何も配置されていません。左上に大きく「HIGH FIDELITY」(ハイ・フィデリティ)の表記があるところに、本盤は楕円と長方形をあしらった、Blue Noteのロゴマークがあります。また、本盤の右上には前ページの『The Amazing Bud Powell Vol.1』でも紹介した「NO STEREO」表記があります。
ジャケット裏の下に住所表記はありませんでした。オリジナルであれば「BLUE NOTE RECORDS, 767 Lexington Ave., New York 21」です。
ジャケットは背文字なし。オリジナルと同じです。ちなみに、本盤のインナースリーブ(内袋)は失われていました。
『オリジナル・プレッシング・ガイド』が定義するオリジナル盤との比較を以下にまとめました。
レコード盤のオリジナル度判定 | ||||
---|---|---|---|---|
オリジナル盤 | 所持盤 | 判定 | ||
略語 | 説明 | 略語 | 説明 | |
RVGe | RVG 手彫り | RVGe | RVG 手彫り | ○ |
P | プラスタイライト(Plastylite)社のシンボルマーク(通称=耳マーク)あり | no P | プラスタイライト(Plastylite)社のシンボルマーク(通称=耳マーク)なし | × |
Lex | 「BLUE NOTE RECORDS, 767 LEXINGTON AVE NYC」 | Lib | 「BLUE NOTE RECORDS・DIVISION OF LIBERTY RECORDS, INC」 | × |
dg | 両面に深溝(Deep-groove)あり | なし | × | |
fr | 平縁(flat rim) | br | 玉縁(beaded rim) | × |
ジャケットのオリジナル度判定 | ||||
---|---|---|---|---|
オリジナル盤 | 所持盤 | 判定 | ||
略語 | 説明 | 略語 | 説明 | |
Lex | 「BLUE NOTE RECORDS, 767 Lexington Ave., New York 21」 | na | 住所表記なし | × |
f | 額縁(フレーム)ジャケット | なし | × | |
bs | 背文字なし | bs | 背文字なし | ○ |
nl | ラミネート加工なし | nl | ラミネート加工なし | ○ |
レコード盤について、前ページの『The Amazing Bud Powell Vol.1』同様にRVG手彫りの刻印以外に〇はつきませんが、オリジナルのメタル・マスターから後日、メタル・マザー、スタンパーが作られプレスされたと考えられます。それにしても、謎の「9M」刻印は何を意味するのでしょうか?今後の研究課題でもあります。
前ページでも触れましたが、本盤は、別な人が録音した音源を、ルディ・ヴァン・ゲルダーがリマスタリングしてカッティングまで行ったもの。録音が古いこともあり、ヴァン・ゲルダー録音に感じられる温かみがあって抜けの良いサウンドは残念ながらここでは聴けません。しかし、レンジの狭い音域だからこそ、ビ・バップ期の熱さがより強く伝わってくる気がします。ファッツ・ナヴァロの超絶テクニックが聴けるだけでもお宝のLPレコードです。
A1 | Our Delight (Alternate Master) | |
A2 | Our Delight | |
A3 | The Squirrel (Alternate Master) | |
A4 | The Squirrel | |
A5 | The Chase (Alternate Master) | |
A6 | The Chase | |
B1 | Wail | |
B2 | Bouncing With Bud (Alternate Master) | |
B3 | Double Talk | |
B4 | Dameronia (Alternate Master) | |
B5 | Dameronia |
[参考文献]
・フレデリック・コーエン著、行方均監修/訳
『ブルーノート・レコード オリジナル・プレッシング・ガイド』(株式会社ディスクユニオン、2011)