ステレオ版『サムシン・エルス(Somethin' Else)』のファーストプレスが発売されたのは、1959年(昭和34年)5月のことです(※1)。
ジャズ批評別冊『完全ブルーノート・ブック』(ジャズ批評社、1987)によれば、記念すべきブルーノート初のステレオ盤としてリリースされた4枚のうちの1枚としてでした。ちなみに他の3枚は、『モーニン』(4003)、『フィンガー・ポッピン』(4008)、『ブルース・ウォーク』(1593)で(カッコ内はレコード番号)、すべてベスト・セラーのステレオ化でした。
(※1)従来8月と表記していましたが、5月の間違いでした申しわけありません。『ブルーノート・レコード オリジナル・プレッシング・ガイド』(株式会社ディスクユニオン、2011)によると、『Somethin' Else』(1595)、『モーニン』(4003)、『フィンガー・ポッピン』(4008)の3枚が1959年5月、『ブルース・ウォーク』(1593)が翌6月の発売になっています。
本直輸入盤の素性を探ることにします。確実なところから、東芝音楽工業よりリバティー直輸入盤が販売開始されたのは、1966年(昭和41年)12月。ユナイテッド・アーティスツに経営が移ったのが77年(昭和52年)。この約10年の間に日本に入ってきた盤であることは間違いありません。
おこがましいと思いますが、『ブルーノート・レコード オリジナル・プレッシング・ガイド』(以降、『オリジナル・プレッシング・ガイド』と表記)が規定するオリジナル要件と対比させながら見ていきます。
一番大事なRVGの刻印です。左がA面、右がB面。いずれも「RVG STEREO」の刻印で、オリジナルと同じです。AB面ともに「E」「O」を見るとよくわかりますが、2度押しのように2重になっています。
レコード番号は、いずれも手書きで、A面が「BN・ST・1595・A」、B面が「BN・ST・1595・B」。区切りが「-(ハイフン)」ではなく、「・(中黒)」になっています。
オリジナルであれば、通称「耳マーク」と呼ばれる、プラスタイライト(Plastylite)社のシンボルマークがAB面ともにあるはずですが、本盤にはありませんでした。
レーベルA面(Side 1)の住所は「BULE NOTE RECORDS・DIVISION OF LIBERTY RECORDS,INC.」。B面(Side 2)は「BULE NOTE RECORDS INC・NEW YORK USA」と、A面、B面で住所が異なる実例です。オリジナルであれば『BLUE NOTE RECORDS INC, 47 WEST 63rd NYC』の表記なので、いずれも違っています。
オリジナルであればAB面とも「深溝(Deep Groove)」ありですが、レーベルの写真からもわかりますが、「段差(Ridge)」があるのみです。
『オリジナル・プレッシング・ガイド』によると、『ブルーノートのステレオ盤は1500番台から不規則に始まる。オリジナルの1500番台には5種類しかステレオはなく、BST1554、1563、1577、1593、そして1595である』『これらの5作は、レーベルに初めてINCとRマークを使用したものでもある』とあります。本盤のAB面ともにRマークはありましたが、住所表記からも後に作られたレーベルです。
※「Rマーク(アールマーク)」=登録商標マーク。「The registered trademark symbol」。「マルR(マルアール)」と呼ぶこともある。
レコード盤端は、演奏面より丸く盛り上がる玉縁(ビーズ・リム)。オリジナルと同じですが、『オリジナル・プレッシング・ガイド』によると、全面同じ厚みの平縁(フラット・リム)は、1957年7月発売の『Lee Morgan,Vol3』(1557)を最後に姿を消しているので、判定材料としては弱いと言えます。
左がジャケット表で。右上にSTEREOの金シールがあります。右がジャケット裏。右上のレコード番号が「Blue Note 1595」。モノラルのジャケットを流用してステレオ盤を発売したもので、いずれもオリジナルと同じ体裁です。
ジャケット裏の住所は、オフィスを西61丁目43番地へ引っ越した60年以降のもの。オリジナルは『BLUE NOTE RECORDS INC, 47 West 63rd St., New York 23』の表記です。
ジャケットは背文字(PS)ありで、オリジナルと同じです。
オリジナルなら、ラミネート加工のジャケットですが、本盤では確認できませんでした。ただ、ジャケット内側にテープのようなものをはがした跡があります。これが、ラミネート加工の痕跡かどうかは定かでありません。
『オリジナル・プレッシング・ガイド』によると、「27 YEARS BLUE NOTE」が表題のインナースリーブ(内袋)は2種類あり、違いを見分けるキー・ジャケットがあるといいます。それは、写真左、下に住所表記のある側を見て、矢印が示すジャケットです。本盤は、そこが「4202:Getting' Around ~Dexter Gordon」で、1966年9月~67年12月の間に使われたものと特定できるそうです。「東芝音楽工業よりリバティー直輸入盤の販売開始は、1966年(昭和41年)12月」の事実と矛盾はありません。
最後に紹介する写真は、10インチ(25センチ)サイズの油井正一氏のライナーノーツ(解説)。私はお宝と思っています。当時、東芝は10インチ盤も輸入販売していたので、依頼原稿の文字数、版下を共通化するため解説を10インチに統一したと何かの本で読んだ覚えがあります。
実は「このレコードは東芝の直輸入盤だ」と判別する手掛かりは、「ジャケットにたすきがけの帯」「油井正一氏のライナーノーツ」の2点しかありません。本盤の帯は失われていたため、仮にライナーノーツがなければ、リバティーの通常の外盤と見分けがつきません。また、中古レコード店を回っていての印象ですが、どうも、直輸入盤を通常の輸入盤(外盤)に比べ下に見る傾向があるような気がします。レコードの質に違いはないので、油井氏のライナーノーツが付いている分、私は直輸入盤に軍配をあげたいと思います。
『オリジナル・プレッシング・ガイド』が定義するオリジナル盤との比較を以下にまとめました。
レコード盤のオリジナル度判定 | ||||
---|---|---|---|---|
オリジナル盤 | 所持盤 | 判定 | ||
略語 | 説明 | 略語 | 説明 | |
RVGst | RVG Stereo 刻印 | RVGst | RVG Stereo 刻印 | ○ |
P | プラスタイライト(Plastylite)社のシンボルマーク(通称=耳マーク)あり | no P | プラスタイライト(Plastylite)社のシンボルマーク(通称=耳マーク)なし | × |
W63i | 「BLUE NOTE RECORDS INC, 47 WEST 63rd NYC」 | Lib NYC |
・A面が「BLUE NOTE RECORDS・DIVISION OF LIBERTY RECORDS, INC」
・B面が「BLUE NOTE RECORDS INC・NEW YORK USA」 |
× |
dg | 両面に深溝(Deep-groove)あり | なし | × | |
br | 玉縁(beaded rim) | br | 玉縁(beaded rim) | ○ |
ジャケットのオリジナル度判定 | ||||
---|---|---|---|---|
オリジナル盤 | 所持盤 | 判定 | ||
略語 | 説明 | 略語 | 説明 | |
STs | 前面に金色のステレオ・ステッカー | STs | 前面に金色のステレオ・ステッカー | ○ |
W63 | 「BLUE NOTE RECORDS INC, 47 West 63rd St., New York 23」 | NYC | 「BLUE NOTE RECORDS INC, 43 West 61sT St., New York 23」 | × |
PS | 背文字あり | PS | 背文字あり | ○ |
lam | ラミネート加工 | lam? | ラミネート加工? | ? |
RVG Stereo刻印は、ルディ―・ヴァン・ゲルダー(Rudy VanGelder)自身が、カッティングしたラッカー盤に直接スタンプされたと考えられます。ファーストプレスなら1959年5月。インナースリーブ(内袋)から推定すると本盤は、66年9月以降~67年頃に、オリジナルのメタル・マスターから、メタル・マザー、スタンパーが作られプレスされたと思われます。
『Somethin' Else』については、ほかに「RVG刻印なしのリバティー盤」「重量盤」の2枚を持っていますが、「音の鮮明さ/力強さ/抜けの良さ」どれを取っても、文句なしRVG Stereo刻印の本盤が勝っています。まるで別物と言えます。
だいぶ長くなりました。最後にひと言、このディープさはCDやダウンロードでは決して味わえないLPレコードならではの世界ではないでしょうか。
A1 | Autumn Leaves | 10:55 |
A2 | Love for Sale | 7:01 |
B1 | Somethin' Else | 8:15 |
B2 | One for Daddy-O | 8:26 |
B3 | Dancing in the Dark | 4:07 |
[参考文献]
・ジャズ批評別冊『完全ブルーノート・ブック』(ジャズ批評社、1987)
・山口克巳著『LPレコード再発見』(誠文堂新光社、2003)
・山口克巳著『LPレコード新発見』(誠文堂新光社、2005)
・小川隆夫著『ブルーノート・コレクターズ・ガイド』(東京キララ社、2006)
・フレデリック・コーエン著、行方均監修/訳
『ブルーノート・レコード オリジナル・プレッシング・ガイド』(株式会社ディスクユニオン、2011)