タイトル | ナイト・アット・ザ・ヴァンガード(Night At The Vanguard) |
アーティスト | トミー・フラナガン (Tommy Flanagan) |
レーベル/番号 | Uptown ,UP27.29 |
刻印VANGELDER |
前ページに引き続き、トミー・フラナガン (Tommy Flanagan)を紹介したい。ニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガード(Village Vanguard)で1986年10月に行われたライブ録音。
本盤は、ルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)にとって記念碑的なアルバムになるのではと考えるのは大げさだろうか?
ジャケット表の右下に「Recorded on location by Rudy Van Gelder」と、ヴァン・ゲルダーの手による現地録音であることが大きく表記されている。
以下は、ジャケット裏の録音データシート。「Recording Engineer」&「Mastering」が「Rudy Van Gelder」と表記されているのは普通であるが。
極めつけは、ジャケット裏の右下に写真付きでヴァン・ゲルダーのコメントが掲載されていること。
「ここ12年で最高のライブ・レコーディング」というようなことが書かれている。録音技師がこのように大きく取り上げられているレコードを見るのは初めてのことである。共演した、ベースのジョージ・ムラーツ(George Mraz)、ドラムのアル・フォスター(Al Foster)と同等の扱いと言えるのではないか。
ジャケット裏を良く見ると、演奏する3人の写真が上に配置され、右下のヴァン・ゲルダーは客席から見上げる形で拍手をしているように見える。とても洒落た配置である。
多くのレコーディングを経験してきたフラナガンが、ヴァン・ゲルダーの仕事に感銘を受けて、このようなアルバムに仕上がったのではないか。また、アップタウン・レコード(Uptown Records)は1986年設立。本盤は同年のリリースで、自由な気風にあふれていたのでは、いろいろと想像してしまう。
さて、レコードの内容である。RVG録音で珍しいと思ったことが、フラナガン自身によるメンバー紹介がアルバムの最初と最後の両方に収録されていることである。
演奏が始まる前の会場のざわめきのなかフラナガンが声を発するが、ざわめきは止まない。「シーッ!シーッ!」という観客からの制止で静かになる。そして、短いあいさつに続いて、ルディ・ヴァン・ゲルダーがレコーディングの仕事で訪れていることを紹介すると拍手がわき上がる。その後にメンバー紹介を行う。控えめな、とつとつとした話しぶりに彼の人柄と知性を感じる。
演奏の内容は、「かめばかむほど味が出てくるスルメのような」と言えばいいのだろうか、聞き込むほどに新しい発見にぶつかるような感覚を覚える。その感覚を私の表現力ではうまく説明できないので、前ページ『オーバー・シーズ(Overseas)』でも引用させて頂いた『ジャズ批評:特集トミー・フラナガン/デューク・ジョーダン』(2009 NO.5/vol.151)で、トミー・フラナガン愛好会の石井将浩氏による、本盤の解説の次の部分をお借りするのがいいようです。『ライブでのメンバーは曲順はもちろん曲すらも知らされていなかったといいます。実際にヴィレッジ・ヴァンガードで生で聴いた時も、ベテランのメンバーでも非常に緊張してイントロに耳を傾けているのが伝わってきました』。
トミー・フラナガンは、多くの日本人に愛されているという。本国よりも日本での評価が高いという説もある。この日本人の感性を私は素晴らしいと思う。
[参考文献]
・『ジャズ批評:特集トミー・フラナガン/デューク・ジョーダン』(ジャズ批評社、2009 NO.5/vol.151)